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【本の感想】豊臣家の人々/司馬遼太郎


豊臣家の人々改版 (中公文庫) [ 司馬遼太郎 ]

 

クラウドワークスで久しぶりにタスクの仕事をしました。「司馬遼太郎作品でおススメの1冊を教えて」的な内容で、この小説をあげました。司馬作品では『関ケ原』が一番好きなのですが「上中下巻」の大長編なので、ひとに薦めるのであれば、この『豊臣家の人々』を推します。

こちらは、日本史上、最も名を知られた人物5選に入っているだろう(※自分調べ)豊臣秀吉一族の話なので、手に取りやすく、また読みやすいのではないかと思います。 

  • 第一話 殺生関白
  • 第二話 金吾中納言
  • 第三話 宇喜多秀家
  • 第四話 北ノ政所
  • 第五話 大和大納言
  • 第六話 駿河御前
  • 第七話 結城秀康
  • 第八話 八条宮
  • 第九話 淀殿・その子

全9話、豊臣家の主要人物9人からなる連作短編です。

豊臣家といえば、秀吉のイメージそのままに常に明るく、賑やかで華やかなイメージがありますが、実際そうだったのは秀吉の最晩年をのぞく生存中限りです。

そして生来の本質がそうだったのか、栄華を極めて人格が変わったのか、それとも老醜なのか、この小説のそれぞれの主人公から見た秀吉は、深い闇を抱えた冷たい人物です。

殺生関白

個人的に最も印象深いのは、第一話です。この『殺生関白』は、秀吉の姉の子、つまりは秀吉の甥である豊臣秀次をさします。跡継ぎに恵まれなかった秀吉は、この秀次を将来の跡取りとして幼い頃から可愛がり、養い育てました。秀次は叔父秀吉の足元にも及ばぬ凡庸で軽薄な人物であったものの、秀吉の養子となって関白の座を譲り受けました。ですがこの後、秀吉に実子が誕生したことで、秀次の人生は破滅へと向かうことになります。

最期、秀次は秀吉の命で切腹させられます。そのうえ、正室、側室、子どもの総勢39名が三条河原で斬られ、穴に捨てられました。跡取りとなる息子だけでなく、妻や娘まで連座して斬られるというのは日本史ではあまり見られません。

秀吉にとって秀次は、もはや我が子の将来を脅かす存在でしかなくなり、その妻子にいたるまで根絶やしにせずにはいられなかったのでしょうか。肉親に対する愛情がことのほか深かった秀吉が、我が子への妄執のような愛によって別人のようになり果てる。哀れなものを感じます。

駿河御前

第六話『駿河御前』徳川家康の後室となった秀吉の妹の話。朝日姫とも呼ばれますが、家康に嫁がされたのは、なんと44歳のとき。現代であれば初老の年齢です。しかも夫と離縁をさせられたうえでのことで、意に沿ったものであるはずもありません。徳川家側から見ても同様です。

百姓として育ち、兄が大名になるまでは百姓として生活をしてきた朝日姫。古くから武家の徳川家にあって、形ばかりは正室としてかしずかれながら、陰でどれだけ軽んじられ嘲笑われたかは容易に想像できます。そんな針の筵のようだったであろう徳川家での生活を考えると、たまらなくなります。人質として虐げられたほうが、まだ楽だったかも知れませんね。最期、朝日姫は病の母を見舞うため上洛したきり、徳川家には帰らず亡くなりました。

残忍で無慈悲といったイメージの信長とは対照的に、秀吉は慈愛に溢れ、誰からも好かれる人たらしの人物というイメージが強いです。確かに、信長に仕えて出世街道をひた走っていたときの秀吉からは生のエネルギーと希望に溢れた、底抜けの明るさを感じます。老いを迎えて変貌する秀吉像に接するとき、いつも物悲しい気持ちでいっぱいになります。

希代の英雄秀吉によって翻弄された豊臣家の人々。その秀吉の死によって、豊臣家も豊臣家の人々も、この世から消滅するのです。